あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『映像研には手を出すな!』大童澄瞳

映像研には手を出すな! 1 (ビッグコミックス)

映像研には手を出すな! 1 (ビッグコミックス)

アニメ制作×女子高生
青春冒険録!?
浅草みどりはアニメ制作がやりたいが、一人では心細くって一歩が踏み出せない。
そんな折、同級生のカリスマ読者モデル、水崎ツバメと出会い、実は水崎もアニメーター志望なことが判明し・・・!?
金儲け大好きな旧友の金森さやかも加わって、「最強の世界」を実現すべく電撃3人娘の快進撃が始まる!!!

SHIROBAKO』以降、漫画界隈でもちょいちょい見るようになったアニメ制作モノ。
とは言え、お仕事ではなく部活なので、今井哲也さんの『ハックス』とかに連なる系譜。
とは言い切れないのが、この漫画の凄いところ。

あらすじの通り、主な登場人物は3人。
「私の考えた最強の世界」を作ることを目指し、日々世界設定を考えイメージボード作成に精を出す浅草みどり
お金大好きで口が達者で美脚、プロデューサー気質の森さやか
カリスマ読モでお嬢様でありながら、アニメーターを夢見て人物画を描きまくる水崎ツバメ
この3人が、各々の思惑でアニメを作るための同好会「映像研」を設立しようとするところから、物語は始まる。

「浅草みどりが設定厨」という設定が重要というか、この漫画のキモである。
浅草さんが考える最強の世界を、いわば妄想を、浅草さんが設定画として描く。描こうとする。あるいは単に設定を考える。すると、あたかも3人がその妄想の中で、一定の物語に沿って動いているような場面にシームレスに切り替わる。妄想が、想像が、いとも容易く現実を侵食していくのだ。どこまでも自由な想像。
別に浅草さんが能力者だー、とかそういう話の展開ではない。漫画内の現実空間が、浅草さんの想像をきっかけに、設定的空間に切り替わる。しばらくの間妄想によって生まれた設定的空間こそ漫画内の現実であるかの如く話が進んだのち、無駄に細かい(もちろん褒め言葉)設定画が提示され、漫画内の現実空間に戻る。

例えば、部室のボロ小屋の修理作業も、彼女たちに掛かれば、宇宙船修復だ。


この妄想による現実の侵食、無駄に細かい設定はもちろんだが、キャラの掛け合いやハッタリ的理屈の言葉選びのセンスも負けず劣らず良い。

自由な妄想や設定の垂れ流しだけでなく、学校のアニ研らしく「限られた設備や時間や人員の中で良いものを作る工夫」がちゃんと描かれている。映像しかり、設備しかり。そういう地道さと、無限の想像力のバランスも良い。

ハッキリ言って相当面白い漫画だと思う。言葉では伝えられない、センスオブワンダーに溢れた作品であるし、何より作者が楽しんで描いていることが伝わってくる。今後が本当に楽しみ。

【感想】『劇場版 甲鉄城のカバネリ 総集編後編 燃える命』

※ネガティブコメント多めです。すみません。

劇場版のカバネリの後編を観てきた。テレビ版の7話以降に相当する部分らしい(TV版未視聴)。束の間の平穏的日常回から始まって、後は美馬登場から打倒美馬までが描かれる。
映像については、相変わらず良いとは思う。但し個人的には無名ちゃんのアクションが少なく、そこは不満点。
で、その不満点以上に、こういう言い方は多少憚られるけれども、正直噂に違わぬ微妙なストーリー展開であった。

対カバネを中心に描いていた前編から打って変わって、後編では美馬という敵キャラを打倒するまでを描いている。この美馬という男は、この世界を統べる幕府の将軍家の長男だが、何やかんやで父を恨み、倒幕、ひいては人類に復讐を試みている。「弱いものは死ぬしかない」という思想のもと、無名に名を捨てさせ(もとは穂積という名前だった)、「弱いものは死ぬしかない」思想を植えつけ、カバネリ化を志願するような教育をした。狩方衆という対カバネ組織を倒幕のカモフラージュとして編成している。
物語の終盤で、美馬を筆頭とする狩方衆は、将軍家の城下町に入り込み、父を殺し、町にカバネを撒き散らす。その中で無名は、美馬に黒血漿を投薬され、洗脳的な状況に陥り、最終的には黒煙の心臓と化す。美馬と生駒が戦い、生駒が勝利し、無名を助けて終了、という感じ。

朧気な記憶を手繰り寄せ、展開をなぞってみたけど、やはり色々とまずい点が思い浮かんでくる。

相変わらず、誰かの失策を物語展開の駆動要因にしすぎているのがまず良くない。生駒たちの狩方衆に対する叛逆の失敗も、また幕府の城下町に美馬が乗り込む要因も、誰かの結構ポンコツで最低限の慎重さがあれば防げるような行動に因っている。これは前編から変わらないマイナスポイント。

が、それ以上にまずい点が少なくとも三つある。

まず第一に、物語の目的が一切果たされていないこと。前編の時点では明確化されていなかった物語の目的地、言い換えれば「主人公生駒の成し遂げたいこと」が、後編の序盤で言葉にされる。表現は違えどざっくり言えば、「無名を普通の人間に戻す」「カバネの恐怖におびえる必要のない世界を作る」の二つである。尺的にこの二つを成し遂げるのは難しいとは思っていたが、どちらかも成し遂げられないどころか、この二つに向かう行動すら微塵もない。先述したように、物語は、言い換えれば生駒の行動は、この先すべて「打倒美馬」に収斂していく。これでは、目的達成のカタルシスが全く味わえない。

第二に、無名の感情の流れがいまいち分からない。後編序盤の時点で、先述のような「無名を人間に戻す」という生駒の誓いに、満更でもなさそうな顔や態度をしていた。無名は、美馬の「弱いものは死ぬしかない」という思想と、親を目の前で殺されたという経験から、強くなるために自らカバネリ化を志願したのだ。「人間に戻りたい」と思うようになるきっかけが正直不明。甲鉄城の人間に触れ、普通の人間にあこがれるという感情は分からないでもないが、この時点で強さを捨てることと人間に戻ることを天秤にかけ、後者を選ぶようになるには根拠が弱い。「弱いものは死ぬしかない」という思想を、あるいは「美馬の目的達成のためカバネリであり続ける」という考えを拭い去るきっかけがない。
まぁここまでなら、6話での展開からギリギリ納得できなくもない。が、その後美馬と再会してしばらくは、美馬万歳の様子だったので、尚更「人間に戻りたい」とこの時点で考えるに至った回路が謎。

第三に、美馬の小物感。父への恨み自体はまあ正当なものだが、そこからカバネを放流して特に罪のない町の住人を巻き込む必要性が謎。この行動、というか美馬の目的は、もはや「強きものしか生き残れない世界こそ正しい」みたいな妄執を以って処理するほかないと思われるが、そうすると小物感が拭えないというか、敵キャラとしての共感が生まれない。

と、だらだらネガティブなことを書き連ねてきたが、「謎」という言葉を頻発していることからも分かるとおり、圧倒的な説明不足、すなわち尺不足である。実際、監督も「この着地点にするなら後4話くらい欲しかった」みたいなことを語っていた。後4話で上記の問題を解決できるとは思わない(そもそもあくまで個人的な謎なので解決してもらう必要ないかも)が、もう少し尺があれば、思考回路の整理や、美馬や無名のエピソードを掘り下げて、物語に納得感が出たのでは、と思う。

観てる側としては「目的が迷子」だったが、一応、擁護することは可能な部分もあると思う。本作のキャッチコピーの一つに「貫け、鋼の心を」というものがある。基本的には生駒に適用される言葉で、言い換えれば「俺は俺が誇れる俺でありたい」というものだろう。この言葉を全うすることを物語の目的とするならば、それなりに達成されていたように思える。「俺は俺が誇れる俺でありたい」という目的の具体は、その時々によって変動する。対カバネ、対人間からの迫害、対美馬、その時々で取る行動は違えど、「俺は俺が誇れる俺でありたい」という誓いを守っている。自分より強大な敵を前にしても、最終的には逃げずに立ち向かい、勝利する。いわば「鋼の心を貫いている」のである。このキャッチコピー、いわばテーマだけはぶれずに一貫していたように思える。美馬の思考や目的も、生駒の成長を描くための配置としては、機能していたように思える。

とはいえ、テーマ的な一貫性はあっても、物語的なカタルシスは乏しい。この手のエンタメ作品にとって、それは致命的だと思う。どうやら2018年に続編をやるようなので、今度は「無名を普通の人間に戻す」「カバネの恐怖におびえる必要のない世界を作る」という、今回立てた二大目標を果たす方向で、生駒たちの逃走闘争譚を着陸させて欲しい。無名ちゃん、いや穂積ちゃんがお米を沢山食べられますように。

【感想】『劇場版 甲鉄城のカバネリ 総集編前編 集う光』

前書き

「カバネ」と呼ばれるゾンビ的怪物達が跋扈し、人類が脅威に晒されている世界。時代設定は不明だが、装甲蒸気機関車が走る中、武士が袴を着て刀をぶら下げているので、スチームパンクと時代劇バトルアクションとパニックモノを混ぜた感じ。

既に完結しているテレビアニメの総集編だが、1クールを前後編の映画にしているので、カットも少なく、そんなに違和感無く観れるのでは、と思う。

因みに私はテレビ版は未視聴…。バタバタしてて観れなかった記憶があるので嬉しい劇場化。

以下、いくつかネタバレ感想を。

1.無名のアクションシーンが麗しい

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 ↑が無名ちゃん。麗しい…。

本編は未視聴だが、このキャラは元々知っていた。CMとか書店のアニメ雑誌とか、新宿アルタのビジョンでの予告編とかで。端的に言ってめっちゃ好みなビジュアルだった。因みにキャラデザはマクロスの人らしい。

この作品の褒め所というか好きな部分の90%はアクションシーンで、その90%の内の99%は無名ちゃんのものである(当社比)。

無名はカバネと人のハーフである「カバネリ」という存在で、現時点では彼女と生駒のみがこれに該当する。基本的に他の面々は割と地味な肉弾戦に終始しているし、生駒も肉を切らせて骨を断っていく無骨なバトルスタイルが多いので、余計に無名の華麗なバトルアクションに見所が集中している。

無名ちゃんの華麗で可憐なアクションと、それを引き立てる為のカバネや他の面々の奮闘は、劇場ならではの臨場感があって凄く良い。こういうバトルアクションは、劇場で観た時の上振れが他ジャンルとは比べ物にならないと思う。テレビ版観てないから比較出来ないけど。

因みに、個人的には機関車に乗る前の、街での戦闘シーンが一番好み。戦場を広くして縦横無尽に駆け巡る感じが。後は首のリボンを外すシーン。最高に色っぽいリミッター解除だと思います。

 

2.生駒というキャラクターを主人公たらしめるもの

個人的に好きな部分のうち、残りの10%がこれ。ただしここはホント超個人的で、人によってはマイナスに捉える部分であるかも。

生駒は、物語の序盤でカバネに食われるも、ウイルスの侵食を無理矢理食い止め、カバネとならずにカバネリになった。カバネリという特殊性が、生駒を主人公たらしめる要因の一つであることは間違いない。が、彼の主人公属性の大部分はそこにはない。

生駒はカバネリと化す前から、カバネの研究やカバネを倒す為の道具開発を行なっていた。生駒以外の庶民は、基本的に逃げ惑い、武士達に対カバネ戦闘を任せっきりという状況の中で。

生駒の、対カバネへのモチベーションは、「妹を見殺しにした、カバネから救えなかった」という経験にある。が、この世界で肉親を失うなんて経験は、作中でも言われているように、ありふれている。他の庶民も経験していることだろう。

生駒が、カバネ殲滅に対して、他の庶民とは一線を画すモチベーションを保っているのは、「性格」「生まれ持った意志の強さ」に他ならない。「妹を守れなかった」という経験から、見殺しにしてしまった自分を悔い、「俺は俺の誇れる俺でいたい!」という誓いを実行していくのだ。それはカバネリ化してからはもちろん、カバネリ化する前(=比較的無力)も。後は「今は馬鹿にされているけどいつか見返してやるからな…!」という、やや後ろ向きな見返しマインドも、彼を主人公たらしめる性格だと思う。

カバネリ化した後は、当然の如く庶民や武士達から迫害されるが、それでも彼は「俺は俺の誇れるのでいたい!」という誓いと「見返しマインド」を以ってしてそれらを跳ね除ける。

この前向きな誓いと後ろ暗い見返しマインドを併せ持つ主人公、賛否両論あるっぽいが、個人的には結構好き。

 

3.ストーリーのお話し

ストーリー自体は正直そんなに面白くないし、素人目線でもちょいちょい粗があるように見える。

まず、ゴールが見えない。「何をすればこの物語は解決と言えるのか?」というお題目が半分を過ぎた現段階で全く提示されていないので、話に入り込み辛い。「カバネを殲滅して平穏な世界を取り戻す」を目標に据えるならば、この段階で「カバネとは一体何なんだ?」「どうすればその場しのぎの戦闘勝利ではなく、種として根絶させられるのか?」という問題提起や足掛かりがある程度はあるべきだと感じるが、それが無い。かと言って他にさしたる目的目標があるようにも見えない。単にその場しのぎの逃走のための戦闘・機関車での移動にしか思えない。その点は、個人的にはマイナスポイント。一応、生駒の心中の誓いで「妹の分まで生きる」とは言っているので、「生き延びること自体が目的」と言えなくもないが、こんなジリ貧ではそれも難しいだろうし、物語の最終目標としては些か弱い。物語の終着点が不明確、これは個人的には結構マイナス。

また御一行がピンチに陥るのが、基本的には誰かのヘマというか、結構な凡ミスとか先走りとかが原因になっているのが殆どである。これもパニックモノでは致し方ないかもしれないが、もう少し上手く処理出来そうな部分ではあった。

後は武士とか庶民の掌返しぶりが、個人的には愚直過ぎて若干苦手。

 

後書き

総評として、ストーリー上に若干の粗はあるけど、ぶっちゃけそんなものは二の次で、無名ちゃんの華麗で可憐なアクションを大画面の映画音響で観れるだけで1800円の価値はあったと思う(個人的に)。

後編のストーリー展開、評判がそんなに良くないことは何となく知っているが、無名ちゃんのアクションとか過去とか正体とかを見届けるために観に行こう。

 

p.s.帰りに書店で見かけて購入した。後編の描写もあるのでカバネリ部分は未読だけど、ポケモンXY&ZとかNEWGAMEとかの記事が濃くて良かった。バックナンバーでSHIROBAKO特集あったのでこちらも購入予定。

アニメスタイル010 (メディアパルムック)

アニメスタイル010 (メディアパルムック)

 

 

 

3巻以内で完結するおすすめ漫画10選

前書き

壮大で長い期間楽しめる長編漫画も良いが、短い時間で濃密な体験を得られる短い漫画も好きなのです。
という訳で、3巻以内に完結するおすすめ漫画を選んでみました。一応、何となくですが【同じ作家を選ばない】という縛りを勝手に入れてます。

★1巻

1.『おひっこし』沙村広明

竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

無限の住人』『波よ聞いてくれ』の沙村広明が描く大学青春コメディ。全2巻の『ハルシオンランチ』と迷ったが、今回はこっち。『波よ聞いてくれ』で見せている暴走気味の会話や斜に構えた世間への不平不満・愚痴を、面白可笑しく描いている。また大学生ラブコメ群像劇らしく、青春の愛憎や人間関係のグダグタさも良い。本作に限らず、沙村広明のコメディ、基本的には登場人物漏れなく全員残念人間なのも謎の安心感がある。

2.『ちーちゃんはちょっと足りない阿部共実

空が灰色だから』で鬱漫画家枠として名を馳せた阿部共実の単巻モノ。主人公・ナツとちょっと知能が足りていない(ADHD?)ちーちゃんを中心とした、中学生女子のままならなさを描いた作品。この二人に限らず、みんな何かが少しずつ足りていない。それは、我々も一緒だろう。物理的なものが足りない人、精神的な充足が足りていない人、思いやりが足りない人、言葉が足りていない人。そういう足りないながらも、(少なくとも客観的には)幸せそうな人間もいるし、そうでない人もいる。詳細はネタバレになるので伏せるが、本作では後者の人間が、劣等感に苛まれながらじわじわと満たされない日々に潰されていく。
読後感は決して良くはなく、心が掻き毟られる感覚が残る。キャラの配置や物語構成、タイトル等、細かいところまで非常に良く考えられており、読み解きがいもある。傑作。

3.『ネムルバカ』石黒正数

ネムルバカ (リュウコミックス)

ネムルバカ (リュウコミックス)

それでも町は廻っている』でお馴染み石黒正数が描く、大学青春モノ。単巻漫画オススメ系では必ずと言って良いほど名前が挙がっている気がするが、やはり外せない。『外天楼』も良いが、個人的にはこちらに軍配があがる。
中盤までは、大学の女子寮で同室の二人、バンドに打ち込む先輩・鯨井ルカと、打ち込むが特にない後輩・入巣柚実を中心とした、緩い大学生日常モノとして話が進む(因みに大学の描写は一切ない。思えば大学生活の思い出の大半は大学という場所にない気がする)。とは言え、石黒さんの日常描写力・着眼点は最強に近いので、この側から見ればどーでも良いけど、本人にとっては切実なモラトリアム生活を眺めているだけでも楽しい。後半は、音楽活動に関するルカの葛藤や焦燥感、「セルフテロ」を仕掛けるシーンを筆頭に、自己実現の方法を考えさせられる。
因みにかの有名な(?)、需要と供給が内輪で完結している、ぐるぐる廻り続けて前進しない様を指す「駄サイクル」という言葉が生み出されたのもこの作品。駄サイクルに陥らないよう日々自戒。
緩いながらも十人十色の焦燥感があるモラトリアム的大学生活は、何度も読み返したくなる。

★2巻

1.『ぼくらのよあけ』今井哲也

アリスと蔵六』の今井哲也が描く、一夏のジュブナイルSF。
近未来感と郷愁を同時に感じさせる世界観も見事だが、2巻の中に諸々の要素を詰め込み、消化しきったストーリーも見事。
親子二代に渡って宇宙船を送還するためにあれこれするという王道ジュブナイルストーリー、いじめや姉弟間の距離感という子供特有のデリケートな問題、またストーリーを阻害しない程度の程よいSF的ガジェットの作り込み、そして人工知能との出会いと別れ等、様々な要素がしっかり絡み合って、全2巻に凝縮されている。
本作に限らず、今井さんの絵は、空間、もっと言えば世界の広さを感じさせてくれる。団地の屋上から見上げる空とか、宇宙とか。特に本作の世界観・舞台設定と今井さんの絵は、整っている訳ではないが、それ故のノスタルジーも相まって非常にマッチしていて良い。

2.『レベルE冨樫義博

説明不要な気もするが、本当に好きな作品なので。
地球にやって来たドグラ星のバカ王子が暇つぶしに起こす「本気の」悪ふざけに皆が振り回される、ドタバタコメディ。
HUNTER×HUNTER』で見せているような頭脳戦を、この悪ふざけに注ぎ込んでいる。単なるコメディではなく、1話完結のミステリ・サスペンス・SFとして斜め上に着地させてくるストーリー作りが凄い。

3.『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない桜庭一樹/杉基イクラ

桜庭一樹による同名小説のコミカライズ。この作品、ネタバレなしで語るのは難しい。ので、原作小説のAmazon紹介文を引用しておく。

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

主題は、側から見れば歪んでいるけど本人(たち)にとっては切実で正常な「愛」とか、少女の反抗と無力感とか、その中で育まれる少女たちの友情とか。
コミカライズではあるが、原作が持つ儚げで危なっかしい雰囲気を見事に描いている。
少女たちが撃ち出す砂糖菓子の弾丸とは?彼女たちは実弾を手に入れることが出来るのか?彼女たちの残酷で窒息しそうな現実を乗り越えることが出来るのか?
結局この作品は、作中のこのセリフに集約される気がする。

『好きって絶望だよね——。』

★3巻

1.『G戦場ヘヴンズドア日本橋ヨヲコ

少女ファイト』の日本橋ヨヲコか描く、漫画家モノ。といいつつ、『バクマン。』のような漫画家や週刊誌のお仕事解説のようなものはない(バクマン。もそれだけではないけど)。「漫画を命を削って描く」登場人物たちの姿に胸を打つ、青春モノである。
以前記事にしているので割愛するが、尖っているが熱くなれる、傑作だと思う。

2.『ヴォイニッチホテル道満晴明

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

南国のリゾートに佇むホテルヴォイニッチを舞台とした物語。一応は、元ヤクザながら凄みのない緩い感じのタイゾウと住み込みメイドで魔女のエレナが中心に添えられているが、その他大勢のキャラが出てくる群像劇と言える。
物語の要約に意味はない。この作品の魅力は、本来なら交わるはずのない、同じ作品には存在し得ないような属性の、様々な(そして漏れ無くエキセントリックな)人物が、「ホテル」という舞台を介して一作品にごった煮のように存在し、繋がっていく不思議さにある。
基本的には1話完結のオムニバス形式なのだが、道満晴明はミステリ的な起承転結が上手すぎる。悲劇的でもあり、喜劇的でもある不思議な読後感。起きていることは殺人とか麻薬とか暴力的なことやその他ままならないことが殆どなのだが、道満晴明のポップな絵柄と、悲劇的なことを淡々と面白おかしく解釈しようとする登場人物たちが相まって、シュールギャグ的な感覚に収斂していく。
このとっ散らかった登場人物たちが織り成すカオスな悲喜劇が、最後は意外にも(?)キッチリ完璧な大団円を迎えている。凄い。

3.『がらくたストリート山田穣

元気で好奇心旺盛で素直な小学生・リントを中心とした小学生's、リントの姉世代の中学生's、リントの兄世代の大学生'sの3世代が、混ざったり混ざらなかったりする田舎日常モノ。宇宙からやってくる可愛い娘(宇宙ちゃん)とか民族伝奇とか、その辺の非日常的要素も存在するが、それすらも日常の範疇に取り込んでいる。
基本的には1話完結で、グダグタと様々な薀蓄を理屈っぽく垂れ流すごった煮的作品なのだが、不思議と読後感はとても爽やかな感じがする。田舎のジュブナイルというテーマというか世界観が通底にあるからだろう。薀蓄を語られる側の反応も、素直に喜ぶリントから「ハイハイ」と受け流す女性陣まで、様々で良い。
最終話で、上半分で女性キャラの入浴シーンを流しつつ下半分でギターの音の仕組みを解説するような漫画。最高です。

4.『ACONY』冬目景

ACONY(1) (アフタヌーンKC)

ACONY(1) (アフタヌーンKC)

妖怪やら森の神やら何やらと言った不思議生物たちが集まる「しきみ野アパート」を舞台とした、「GOTHIC BLACK APERTMENT COMEDY 」(公式)。奇々怪界な人物が住まうしきみ野アパートに、中学生の主人公・モトミが引っ越してきて、永遠の13歳(中身は23歳)のアコニーという少女と出会うところから話はスタートする。
一応、アコニーの不老不死の秘密を明らかにするというストーリーや、冬目景作品に共通する社会からの視線云々や自分は何者なのか的問いなど、ややシリアスな部分もあるが、基本的にはアパートを舞台とした(というかアパートに振り回される)カオスコメディ。
アパートという舞台自体と、カオスで奇異な住人たちの両面からドタバタが発生し、それに振り回される一般人モトミという構図が良い。ラストの、アコニーとモトミのこれからの関係性を予感させる終わり方も余韻が残る。
結局、自分の頭が足りてないので、冬目景作品の良さを語るとき「雰囲気」としか言えないのがもどかしい。
因みに単巻ゆるふわラブコメ『ももんち』と悩んだが、今回はこっち。

後書き

結局、定番が揃った気がします。新しい作品が少ない、というかナッシングですね。思い出補正が強すぎるのか…?
何はともあれ、短い漫画は良いものです。軽い気持ちで読むと、不意打ちで刺されることも多々あります。財布にも優しいので、今後もどんどん読んでいきたいと思います。

【感想】『俗の金字塔(窓ハルカ)』~ポップで明るいモラル崩壊

俗の金字塔 (torch comics)

俗の金字塔 (torch comics)

表題作の中篇『俗の金字塔』を含む、中短編集。

容姿端麗な変わり者ゆかりと、その恋人の野中雪夜、野中への恋路の途中でゆかりへと心変わりした後輩女子の美咲。不思議な三角関係を軸に、意表をつく展開をみせる表題作「俗の金字塔」ほか、過激で繊細な物語8編。

と、作品紹介には書かれている。
まぁそうなのだが、この作品はそんなストーリー紹介は意味を成さない。

この作品、特に表題作で展開されているのは、およそ「モラル」とか「常識」とかが抜け落ちている人間たちによる性コメディ。この手の所謂「サブカル糞野郎系マンガ(貶し言葉ではない)」は、往々として性衝動を扱っているが、その多くが性衝動に振り回されている人間を、割と重々しく描いているように思える。本作も書店に行けば、そういう作品群と同じ棚に陳列されているだろう。しかしこの作品は、そういう性衝動やそれに伴う変態的行為行動は当たり前に・前提的に存在している。主題ではない。それらはあくまでギャグの要素に過ぎないとばかりに。登場人物たちは、俗な欲望に忠実に生き、軽々とモラルを超えて行く。

で、こういうとなんだか普通の単なるお下劣コメディみたいに見えるが、読んで受ける印象は随分と違う。このアブノーマルな人間たちが、単純なカオスに振り切れず、ギリギリではあるが普通の恋愛モノ的で健気な感覚を持っているのが、愛らしい。登場人物それぞれが、何か懸命に、そしてポップで明るく、愛に生きている感が出ている。理屈じゃなく印象として。このバランス感覚は、もはや天性のものと感じる。

と、だらだらと感想を書き連ねてきたが、基本的には「理屈で考えるな!感じろ!」系のスピード感溢れるコメデイとして楽しめる。唐突な性描写をコメディ要素として昇華できる方ならば、是非ご一読を。

絵柄と謎の疾走感が相まって、ギャグマンガ日和の夢野カケラ作品を思い出す。

【2016年】個人的におすすめしたい漫画10選

前書き・選定基準とか

2016年も残すは1週間。今年も色々な漫画を読んだ。今年も玉石混交の漫画界だったが、個人的に「これは玉!」と感じた作品を、下の基準に沿って紹介していきたい。

①完結済みの漫画のうち、2016年に完結巻が発売された漫画(全1巻・短編集含む)

②未完結の漫画のうち、2016年に単行本が発売され、かつ現在の巻数が5巻以下の漫画

これくらいの縛りが、なんというか「2016年の漫画です!」感が出ると個人的に勝手に思っている。因みに紹介順はテキトーです。10選という数にも深い意味はないが、多すぎず少なすぎずという線のつもり。キリも良い。では早速。

1.『空中庭園の人々』冬目景

冬目景作品集 空中庭園の人々 (バーズコミックス)
 

 

 全1巻の短編集。以前記事にもしたが、私は冬目景信者なのである。なのであるが、この作品は信心抜きにしておすすめできる。

宇宙人とかゾンビとかタイムスリップとか、その辺の「少し不思議」要素をミニマムな生活に溶け込ませてコメディをやっている。どの話も出来も雰囲気も良い。冬目景最大の魅力はやはり絵面とそこから醸し出されるスレた雰囲気なのだが、これが不思議とコメディにもマッチする。過去作なら『ACONY』とか。毛色が違うラスト1話の「青密花」は、冬目景の一般的イメージの退廃で鬱屈とした作品に仕上がっている。比較的読みやすい作品が多いので、冬目景入門にもうってつけ。

bonsai-shiori.hatenablog.com

 

2.『ニュクスの角灯』高濱

ニュクスの角灯 2 (SPコミックス)

ニュクスの角灯 2 (SPコミックス)

 

未完結、現在2巻まで発売中。

舞台は明治時代初期の長崎。道具屋「蛮」の売り子で、物の過去や未来が見える神通力持ちの主人公・美世を中心に、道具屋店長のモモ他、様々な人物の人間関係や野心を丁寧に描いている。

チョコレートやミシンや洋服等に驚きつつも使用していく様であったり、逆に日本の道具を海外へ輸出するために奮闘したりと、明治時代ならではの文化的商売モノとして、時代背景や道具の描写が丁寧で良い。が、それ以上に、主人公・美世の成長譚として楽しめる。最初は文字も読めずネガティブな少女だったが、読み書きを覚え、色々なものに触れ、看板娘として強かになっていく。好奇心も旺盛になるし、モモへの恋心も自覚していく。ぶっちゃけてしまえば、滅茶苦茶可愛いのである。

2巻のラストでは、美世の恋路に二つの障害が立ちふさがる。穏やかでないが、応援したい。

 

3.『波よ聞いてくれ』沙村広明 

未完結、現在3巻まで発売中。

今更紹介する必要があるか?という位有名な作品だが、やはり相当に面白いので選出。私は冬目信者でもあると同時に「サムラー」でもあるのです。 因みに玉置勉強も結構好きで、当時の多摩美半端ない。

カレー屋でアルバイトをしていた主人公・ミナレが、ひょんなことからラジオのパーソナリティを目指す話。作者曰く「無軌道オカルトカレーラジオ漫画」とのこと。

沙村広明の作品は、

①バトルアクション魅せる系(無限の住人、ベアゲルター等)

②欧州貴族の闇系(ブラッドハーレーの馬車、春風のスネグラチカ等)

③会話重視のコメディ系(おひっこし、ハルシオンランチ等)

に大別される。本作は③。沙村広明の漫画家としての最大の魅力は、会話センスだと個人的には思っている。特に時事ネタ。本作の「場末の地方ラジオ」という舞台設定は、氏の魅力を最大限に活かせるモノだと思う。これからも主人公・ミナレ他多数のキャラクターたちの無軌道から目が離せない。

大体の人は読んでいるか、少なくともタイトルは知っているだろう。未読の方、ぜひ読みましょう。既読の方、特に③の作品を読んでみてください。全部読んでる方、僕と握手。

 

4.『動物たち』panpanya

動物たち

動物たち

 

全1巻の短編集。

全1巻の短編集と言いつつ、 前作までの3作品から継続している作品集。

この作者の魅力は、マジで読んでくれとしか言えない、説明しがたい日常遊離的な雰囲気にあるのだが、それでも言葉にしようとするなら、

①風景や心情や日常の細部を抉り出す観察力

②①の違和感を膨らませてトンデモ不思議ワールドを構築する想像力

③②で構築したワールドを細部まで濃く写実的に描写する画力

④③と対比させるかのような人物・生物のデフォルメ力

⑤①で観察した日常あるあるの細部をさらっとトンデモワールドやキャラの言動に混ぜ込む台詞回し

と言ったところだろうか。分からないと思うので読んでください。

前作までの3作品は「足摺り水族館」「蟹に誘われて」「枕魚」と、魚関係のタイトルだったが、本作は「動物たち」となっている。前3作品は、トンデモワールドに対しても登場人物は淡々としていたが、今作では表情が豊かになっている。多少。また完全巻き込まれ型が多かった前3作に比べて、本作では人物が(多少)能動的に動いている。この辺のタイトルと中身のリンクのセンスも素敵。表情豊かにはなっているが、登場人物たちが不思議事態に巻き込まれてもいい意味で淡々としているのは変わらず。今までの作品と比べて荒唐無稽感が若干薄く、どちらかと言えばちょい不思議なポップエッセイ的な感じにはなっている。一番読みやすいと思うので、ぜひご一読を。

 

5.『やがて君になる』仲谷鳰 

やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)

 

未完結、現在3巻まで発売中。

ビバ・百合。と言い切れないのがこの作品の妙。特別な恋愛感情が分からない侑と、完全無欠の生徒会長という皮を被ったチワワ系橙子のアンバランスでアンビバレントな感情にやきもき。絵面も透明感があって読みやすい。最近の百合ものにありがちなヤンデレホラー感や過程をすっ飛ばしてイチャイチャするだけの作品とは一線を画し、丁寧に心の機微を描いている。その上で百合的ニヤニヤも十分にある。

侑は「好きっていう感情が分からない」とか言っているし、一見べた惚れに見える橙子は橙子で「好きになってくれなくても構わない」とか言っている上に何やら厄介な過去がありそうで、彼女たちの恋路は一筋縄ではいかないだろう。果たして彼女たちはハッピーエンドを迎えることができるのか?そもそもどんな状態がハッピーなのか?今後とも目が離せない。

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6.『盆の国』スケラッコ

盆の国 (torch comics)

盆の国 (torch comics)

 

全1巻。

お盆(8月15日)をループする世界に巻き込まれ、そのループに気づいた女子中学生・秋が、浴衣を着た謎の青年・夏夫と出会い、ループを解消するために奔走する、という話。

ループものとして見ると粗は多いが、この作品の魅力はそういう話の筋にはない。ガールミーツボーイのジュブナイルものとして、切なくも前向きなラストが非常に良い。またお盆という設定もよく、ご先祖さまの幽霊たちが可愛らしい。千と千尋っぽいが、オリジナリティも出ている。

商業デビュー作らしいので、今後とも期待大である。

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7.『彼とカレット。』tugeneko 

彼とカレット。 (4)

彼とカレット。 (4)

 

全4巻。

『上野さんは不器用』でプチブレイクをした作者の4コマ漫画。個人的にはこちらの方が数段面白いと思っている。終わってしまってとても悲しいのです。

ポンコツの癖に態度が悪い家事ロボットのカレットと、カレットの派遣先のアパートに住むセクハラ青年イケダを中心とした、ギャグ4コマ。『上野さん』でも健在のセクハラギャグを、4コマのスピード感でやっている。

登場人物が多く、どれもキャラが立っている。このわちゃわちゃ感が終わってしまう喪失感は凄かった。因みに週刊アスキーのウェブサイトで無料で読めるっぽい。

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8.『メイドインアビス』つくしあきひと 

メイドインアビス 5 (バンブーコミックス)

メイドインアビス 5 (バンブーコミックス)

 

未完結、現在5巻まで発売中。

冒険ファンタジー。 人類最後の秘境と呼ばれる、謎の巨大な縦穴「アビス」。「探窟家」と呼ばれる人々は、命をかけてアビスに挑み、遺物と呼ばれるテクノロジーやまだ見ぬロマンを追いかけている。主人公リコは、伝説の探窟家である母親を追い求め、謎の少年型ロボットリグとともにアビスへ挑み始める。

というのが導入部分。こういう冒険物、個人的にはあまり読まないカテゴリーなのだが、本作は別格のように感じる。

まず、設定や描写の緻密さ・強度がすごい。こういう冒険物は、「どこまで世界観を設定するか」というのが肝だと個人的には思うのだが、本作は非常に良く練られている。例えばアビスは7層に分かれており、層ごとに呪いがあるのだが、呪いの現象はもちろん、その発生原理まで、納得してしまうような形で提示されているのだ。この世界観や現象、アイテム等は当然想像の産物だが、読んでいて納得してしまえる情報があるか、というのはファンタジー作品の没入感を大きく左右するが、本作では大きくクリアしている。

造形センスと画力もすごい。各巻の表紙を見ていただければわかると思うが、キャラクターが可愛い。頭身低めで。作中もブレることのない可愛さ。色々な謎生物も見所である。

そして話の内容は結構えぐい。アビスの呪いにしてもそうだし、呪いを研究して非人道的実験をしている人間もいるしで、可愛いキャラに容赦なく絶望的なことも起こる。とはいえ理不尽で突拍子も無い災厄は少なく、この設定でこういう行動をすれば致し方ない、という絶望。それでも主人公御一行は、前に進んでいく。その、絶望と希望、そして登場人物にまつわる謎が、物語の推進力になっている。

没入感が凄いし、キャラも魅力的だし、謎も散りばめられていて先が気になるし、今一番熱い冒険物だと思う。

因みにアニメ化するらしい。

 

9.『スペシャル』平方イコルスン

スペシャル 1 (torch comics)

スペシャル 1 (torch comics)

 

未完結、現在1巻まで発売中。

割と普通の転校生・さよと、異常な怪力女、ガソリンフェチ、金持ち女子と従者的男子、豆中毒、つねり魔等、一癖も二癖もあるクラスメイトたちが織りなすコメディ。

と言い切れないのが本作。転校生以外から、上述のような「変」な部分に突っ込みが入ることはない。彼らは既に受容し、日常の常識の中に「変」さを組み込んでいるのだ。そこに対する転校生の視線、これが本作をただのコメディと割り切れない魅力である。

もちろん、作者の武器である独特な台詞回しも健在である。

この不思議な魅力は、作者にしか出せないと思う。作者の作品の中では比較的読みやすく、笑いどころもわかりやすいので、ぜひ。

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10.『第七女子会彷徨』つばな

第七女子会彷徨 10 (リュウコミックス)

第七女子会彷徨 10 (リュウコミックス)

 

全10巻。

女子高生版ドラえもん
「友達選定」という仕組みでペアになったしっかり者の金やんと天然ボケの高木さん。始まりはシステマティックだが、彼女たちの友情は育まれている。 技術が進歩し、様々な珍妙な道具があふれていている世界で、彼女たちが道具に振り回されていく。基本には1話完結だが、時折1巻丸々使って、プチ長編も混ぜてくる。

珍妙SF風味ギャグあり、女子高生ぽい友情あり、技術によって日常が崩壊していく様ありと、様々な要素が絶妙に絡み合っている。

最終10巻では、今まで積み上げてきたものの現実と仮想のラインを曖昧にしつつ、伏線を回収し、前向きなラストを描き出していた。本当に傑作だと思うので、完結を機にぜひご一読いただきたい。

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後書き

以上、10作品を紹介した。以下一覧。

①『空中庭園の人々』冬目景

②『ニュクスの角灯』高濱

③『波よ聞いてくれ』沙村広明

④『動物たち』panpanya

⑤『やがて君になる』 仲谷鳰

⑥『盆の国』スケラッコ

⑦『彼とカレット。』tugeneko

⑧『メイドインアビス』つくしあきひと

⑨『スペシャル』平方イコルスン

⑩『第七女子会彷徨』つばな

今年も、長年読んでいるベテランから新人、私が知らなかった中堅どころまで、様々な方の作品を楽しむことができた。来年も沢山読んでいきたいものです。

 

よろしければこちらも。

【感想】『のーどうでいず』せきはん

 

のーどうでいず(1) (アース・スターコミックス)

のーどうでいず(1) (アース・スターコミックス)

 

伏線も劇的な展開も何もない、ご近所アウトドア・ストーリー。年代が微妙に異なる女子学生たちが、まったりとした田舎的スローライフを満喫している様子を丁寧に描いている。東京から帰省中の高校生・さとみを中心に、中学生の純・はなこ、さとみの妹・ともえの四人が、用水路で魚獲ったり、ビオトープ作ったり、川で遊んだり。
そんな緩々ライフと、妙に偏った知識・薀蓄の披露(魚方面とか)が絶妙にマッチしている。こういう、作中のキャラに作者が憑依して偏った知識・趣味を語らせてくる作品、すごい好き。(それ系統の最高峰は『がらくたストリート』だと思う。)因みにその趣味を語ってくるのは東京から帰省中のさとみ。眼鏡娘好きにとっては及第点以上の造詣です。

 で、この作品の何が良いって、全ページフルカラーなのですよこれ。前作『グッバイエバーグリーン』から引き続き、少しレトロな雰囲気の作画。淡めの緑・青をメインに塗られているので、目に優しい。癒し。キャラクターも皆生き生きと描かれていて、良い。

 田舎ライフモノ、最近だと『のんのんびより』があるが、あの作品とは若干毛色が違うかなーと個人的には思う。『のんのんびより』、結構好きなんですけど、アレはギャグというかコント感が強い。『のーどうでいず』に関しては、そういうコント感はおさえられている。むしろ『ふらいんぐうぃっち』とかに近い感じで、笑いどころもハイテンションに振り切らない。

田舎と言っているけど、舞台は埼玉県らしい。