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あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『告白』 町田康〜人はなぜ人を殺すのか

ならず者はいかにしてならず者になるのか
どんな世の中にも、いつの時代にも、「ならず者」という人々がいる。所謂「社会一般」とそりが合わず、碌に働きもせず、世俗から敬遠されている人々だ。
社会一般側の人間たちは、(ある意味「大多数」という数の暴力を根拠に)彼らのことを忌み嫌う。「なぜそんなことをするのか」「なぜみんながしていることをしないでフラフラしているのか」と批判する。

町田康の『告白』は、その疑問、つまり一人の青年がならず者になる過程を、出来事的/心理的側面から丁寧に描いてる大傑作である。

この作品は、「河内十人斬り」という、明治時代に実際に起きた大量殺人事件をモチーフにしている。この事件の犯人・城戸熊太郎が、この事件を起こすに至る過程を、800ページに渡って描いている。

熊太郎は、「思弁的」である。つまり、何かを言おうとする際、あれこれ考えてしまって、思考が脇道小道に反れ、最初に言おうとしたことから大きく外れた言葉が出てしまう。行動に関しても同じことである。

この思弁的な性格と、15歳の頃に過剰な正当防衛で皇族を殺してしまった(かもしれない)という過去が、熊太郎をならず者にしていく。
思弁的な性格ゆえ、誰もが馬鹿の一つ覚えで簡単にやっていること(百姓仕事)ができない。それ故、周りからは無能の烙印を押される。また、「どうせいつかは皇族殺しが露呈して俺は終わるんだ」という思考により、真面目に働くことをせず、賭博や酒へ走るのだ。

また、熊太郎は何だかんだで甘ちゃんである。思弁が自分の都合の良い方に暴走し、それを信じ、最終的には騙される…というパターンが多い。特に、熊次郎という豪農には、何度も煮え湯を飲まされる。

最終的な大量殺人のきっかけは妻の不貞である。しかし、その裏には、熊太郎の歩んできた哀れな人生の積み重ねがあるのだ。

その積み重ねを、丁寧に、かつ町田康ならではのコミカルな文体で(シリアスなところはシリアス)描ききっている。

この思弁的な性格というのは、ある種のコミュニケーションの不通を引き起こす。これって、割と現代では普遍的なのかなーと思う。「言いたいことが伝わらない」「こんなこと言いたかったんじゃなかった」という経験をしたことからない人なんていないのではないだろうか。そういうモヤっとした感覚を、しっかり言語化してるという意味でも、本書はとても秀逸である。

告白 (中公文庫)

告白 (中公文庫)