【感想】『茄子』黒田硫黄
- 作者: 黒田硫黄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/11/12
- メディア: Kindle版
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全体的に地味で乾いているけれど、それが妙な中毒性を孕んでいる。線がくっきりとした絵や描写の細かさ、当意即妙な会話、特に女性キャラの媚なさとでもいうのだろうか、様々な形で人生を受け入れている感じ。
ここで言う描写の細かさとは、背景とか小物とか、そう言う絵的な部分もそうだが、日常過ごす手続きのようなもの、要は生活の描写にまで及んでいる。茄子漫画というだけあって(?)、特に調理のシーンというのは事細かく描かれている。しかし料理漫画ではないので、調理の解説はしない。あくまで日常の、生活の一風景としての調理。こういう細部への拘りが、読者を作品の世界へ強く引き込んでいく。一コマ一コマが、一言一言が、しっかりと連続しているのだ。
個人的に一番好きなのは、「ランチボックス」という短編。高校卒業後、「なかよしの強要」に馴染めずアルバイトを辞めた無職の二十歳・国重さんと、同級生で朝起きれずに会社を辞めた有野君が、川原でキャッチボールをする話。こう書くと自堕落のような見えるし、実際そうとも言えるのだが、何故か不思議な清涼感がある。
国重「私さあ レンアイとかケッコンとかコドモうむとか なんかそーゆうことぜんぶしないで生きていこうと思う 決めた」
有野「そうなんだ でもなんかわかるよな気もする」
国重「ほんとー?」
有野「人並みのことってできないといけないのかなあ」
国重「ねーえ」
『茄子』上巻より
極め付けはこの最後のコマ。
自分の性格と人生を客観視して、馴染めないことを認めて、それでも清々しく受け入れている感じ!隣のリーマンが疲れた顔でTIME誌を読んでいるのも良い。因みにこの話の続編で、有野君はダメ人間の王道・インドに旅立つことを決意します。
その他にも宮崎駿が絶賛しアニメ映画にもなった『アンダルシアの夏』や、隠居して茄子農家で生計を立てているおっさんを中心とした連作短編『◯人シリーズ』等、傑作短編の宝庫。