あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『バーナード嬢曰く。』施川ユウキ

 

 この漫画を読んで純粋に笑い飛ばせる人はきっと、とても幸福な読書家だと思う。読書という行為自体はともかくとして、「趣味:読書」と自称したり、また特定のジャンルや作家を好きであると宣言したりするのは、やはり「ハードルが高い」と痛感することが(僕は)多い。本作で言及されるようなSF課題図書1000冊のように、「最低限これは読んでおかなければ」という本に触れられていないことの方が多く、「これで好きと名乗っていいのか?」という厄介な自意識が、純粋な「読書/ジャンル/作家を好き」であることから遠ざける。

  本作の主人公のバーナード嬢は、読書家ぶりたいけど名作を読む体力気力集中力その他諸々が欠けており、「読まなくても読んだ感を出して通ぶる」ことに命を燃やしている。彼女に加え、ガチめなSFファンのJK、シャーロキアンのJK、過去のベストセラーを時間が経ってから読むDKの4人で、うだうだ本や読書や未読書について語っていく。実際のいわゆる名著や傑作を、いかにして読んだことにするかとか、それに対する周りの(本当の)読書家たちのつっこみ及び熱い主張、また特にSF方面の薀蓄がコミカルに描かれている。ボケもツッコミも切れていて、かつ好きなものに熱くなりがちな「オタク心」も巧みに描かれている。

 この4人のキャラも良い。このアホの主人公も全力でアホというか、本当にぶれずに「未読で通ぶること」に全力なので見ていて気持ちが良いが、それ以上にSF好きの神林さんが実に可愛い。SFのことになると吹き出しいっぱいに語り出すとことか、その後語りすぎたことを反省したりとか、バーナード嬢に対する心の開き方とか。

  読書する心構えとして、割りかしハッとさせられる台詞も多い。例えば、以下。

ーーハードSFを読む上で求められるリテラシーとは、「難しい概念を理解できる知識を持っているか」ではない。「よくわからないままでも、物語の本質を損なわずに作品全体を理解するコトが可能な教養のラインを感覚で見極められるかどうか……だ

バーナード嬢曰く。』6冊目 神林しおり

うーむ、言い得て妙…というか分からないことへの免罪符を与えてくれるので全力で肯定したくなる。まぁ結構な割合で教養のラインの見極めを間違えて(概ね低く設定して)アカンやん……分かりませんやん……となるが。

 普通に笑えるし、新たな本(特に未読のSF古典的名著)の逆引き辞典にもなるし、「読書家を自称すること」の難しさを再認識して自戒するきっかけにもなる。会話型のギャグ漫画として普通にクオリティが高いと思うので、本好きにはもちろん、本好き以外の方も是非。