【感想】『電気サーカス』唐辺葉介
- 作者: 唐辺葉介
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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自伝的小説、と銘打たれているだけあって、どこか私小説めいた語り口で物語は進んでいく。氏の作品で最も平坦かつ暗澹とした印象の1人称。テキストサイト全盛の時代に生きる青年・水屋口悟と、まぁメンヘラといって差し支えない女子中学生・真赤を軸とした、自堕落でモラトリアムを極限にまで引き伸ばした人間たちの何も起きない、起こす気もない共同生活を描いている。
この水屋口は結局のところ、「あらゆる気持ちが継続しない」という特性があるのだろう。全うに生きようという気持ちも、もう死にたいという気持ちも。彼の中にあるのはただ、明確な原因のない、漠然とした「辛い」という気持ち。そういう気持ちを抱えたまま、定職に就かず、就いても面倒な自意識に苛まれて辞め、ドラッグと酒とインターネットに溺れる自堕落な生活を送り続け、真赤に振り回される共依存的な関係に堕す。その様子は、週刊連載ならではの短めのエピソードの集積によって語られていく。
サーカス、すなわち見世物である。インターネットのテキストサイトに魅せられ、自らの生活を切り売りし、肥大化した自意識を時に面白おかしく時にに悲惨に公開していく彼らに、なんて相応しいレッテルだろうか。
明確にどこかにたどり着く話ではない。鬱屈とした青年が、鬱屈とした人間たちと、鬱屈とした生活を送るだけの話である。残るのは、ぬるい泥沼にずぶずぶと落ちていく感覚のみである。
ここ3年ほど音沙汰の無い作者だが、また小説を(可能ならエロゲーを)書いて欲しいなぁ。最新作は3人称だったので、できれば独白めいた1人称で。