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あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『めしにしましょう』小林銅蟲

いわゆる「グルメ漫画」というフォーマットがここ最近増えてきている。本作も題名だけで判断するならそこに連なる作品と思えるが、その実は随分と異なっている。「(美)女が美味しそうな料理を美味しそうに食べる」という形式からの逸脱が見て取れる。

漫画家の广大脳子の仕事場で、チーフアシスタント青梅川おめがが破壊的な調理を繰り広げる。破壊的、と書いたが例えば人の家の風呂を使用して牛肉丸ごと低音調理を施してローストビーフを作る、スッポンを家庭の台所で捌く、和田浦のクジラ解体を見学した後4キロ購入してクジラ料理を作りまくる、など枚挙に暇がない。

この破壊的で長回しの調理こそ、他のグルメ漫画とは一線を画す要因である。グルメ漫画の大半が食べるシーンやリアクションに多くのページを割いている中、本作では食べるシーンは多くて2ページ。大部分を調理の試行錯誤を描く事に費やしているのだ。

また「めし」という表現も良い。彼女たちは漫画家で、イメージ通り〆切に追われ、毎回修羅場に陥っている。その修羅場を乗り切るために、あるいは逃避するために、腹を満たす。お高くとまったグルメではなく、また近頃流行りのB級料理を美少女が食べるギャップを狙った食事でもない。

手っ取り早く心を満たす食事に必要なのは「欲望のレシピ」
「欲望のレシピ」が我々のMPを回復するんです

潔い。まさに「めし」って感じ。

調理パートはもちろん、漫画家としての修羅場パートや日常(?)会話のキレも良い。

なんていうのかな チョコレートってチョコレートの味が支配的じゃない それが困る
バレンタインで他人と差をつけたいのに最終成果物の味は必ずチョコの味がするっておかしくない?絶対おかしい
となると可能性は2つ
・チョコなのにチョコの味がしない
・チョコではないのにチョコの味がする

という暴論を展開した後、流れるように豚の角煮クレープを作り出す。こういう、無駄に回りくどくて勢いがあるような言語感覚が個人的には凄く好きで、そういう台詞の宝庫でもあるので非常に嬉しい。

一応各料理のレシピ、というかフローチャートが付いているのだが、「分量は宿題とします」「やってやれないことはない」という但し書きが記されていて、分量の記載はない。青梅川おめがのように、欲望と勢いに身を任せつつも試行錯誤しながら分量を見極めていくのが、まさにめしを作ることの醍醐味なのだろう。