【感想】『雑草たちよ大志を抱け』池辺葵
雑草たちよ 大志を抱け (フィールコミックスFCswing)
- 作者: 池辺葵
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2017/02/08
- メディア: コミック
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舗装されたエリート街道を歩いてきた者には手に入れられない、辛酸をなめ続けて、それでも強くあらんとした者たちにのみ備わっている不屈の心。池辺葵という漫画家は、「女子」という独特の階層社会のなかで雑草魂を培ってきた女子たちに焦点を当てた作品が多い。
本作は、そのままずばり『雑草たちよ大志を抱け』。学校というこれまた独特かつ普遍的なカースト制度のなかで、決して「上」の方はない、煌びやかな青春とは程遠い存在である女子たちを描いた群像劇である。
ここで描かれる女子高生たちは、各々コンプレックスや何かに対する負い目を持っていて、それに自覚的である場合が殆どだ。けれども彼女たちは煌びやかな青春及び人生への努力を放棄しない。腐らない。愛すること、愛されることを希求して、日々の学生生活を送っている。「下」に生きる人々を描きながら、決してそれの悲観的な部分を極大して取り上げない。「下」には「下」のやり方があって、(「上」の人間からみたら些細で取るに足らないものかもしれないが)本人たちには一大事で真剣なのである。その目標に向かって地道に前進していく姿はやはり美しいし、私はそれを尊いと思う。
そしてその様な人たちが発する台詞がまた良い。
そんなの気のせいだし私なんかって思うけど でもそれでもちょっとでもましに見えたいなーって
くさったりしないでかわいく見えるようにせいいっぱい努力してみようって思ったんだー
この健気さ、前向きさたるや。
もちろんそういう生き方をする彼女たちにも、しんどさは到来する。挫けそうになる時もある。けれどもそんな時は、誰かの何気ない一言や行動によって励まされるのだ。
思えば『プリンセスメゾン』も、居酒屋チェーンの社員という、いわば「低賃金」のイメージがある(実際作中でもそういう扱い)職についた沼越幸が、自分にできる現実的な範疇を自覚した上で、持ち家取得を目指していく物語である。自分の立ち位置を自覚しつつも、希望を捨てず、出来るところから地道にコツコツと行動を起こし、貯蓄や物件探しに静を出す幸の姿も、雑草魂を持って目標を成就させるという点では本作に共通している。
表舞台に立つことのない、煌びやかでない人間たちの希望を感じられ、とても元気付けられる作品だった。