読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『カルテット』TBSドラマ

感想 実写

珍しく、実写ドラマをリアルタイムで視聴している。
キャストと脚本家と椎名林檎に釣られたが、大層面白い。
松田龍平松たか子高橋一生満島ひかりのメイン4人に加え、菊地亜希子という(個人的)神キャスト。ゲストだけど。

世吹すずめ(満島ひかり)が路上でチェロを演奏していると、怪しい老婆が怪しい依頼を持ちかけられる。この人と友達になってください―。そういって見せられたのは、巻真紀(松たか子)の写真。この老婆は真紀の夫の母親である。真紀の夫は失踪しているが、本当は真紀が殺したのだと考え、すずめに探りを入れさせるのが目的だった。
というのが導入。路上で裸足でチェロを弾くすずめ、良い。かわいさといたたまれなさと馴染めなさが同居している感じ。
真紀とすずめに加え、それぞれの思惑を抱えた別府司(松田龍平)と家森諭高(高橋一生)が、偶然(を装った必然なのだが)カラオケボックスで出会い、弦楽四重奏を組む。4人は平日はそれぞれ東京で生活を送りつつ、週末は軽井沢の別荘(司の親戚の持ち物)で共同生活を送るようになる。そこで音楽の練習をし、音楽レストラン等で演奏をする。その裏で、散りばめられたそれぞれの謎に満ちた過去と恋の行方を描いていく、というのが基本線。また、音楽という夢に破れ、ゆるやかな人生の下り坂を進みつつある悲しき30代たちの人間ドラマでもある。

まず、何といっても会話が面白い。面白いだけでなく、本音や真実を隠した会話の為の会話であったり、何気ない会話がテーマに直結していたり、物語の展開の伏線になっていたりするのが良い。
1話の「から揚げレモン問題」の会話はまさにそれで、一見ありがちな小ネタであるが、コミュニケーションのズレや関係の不可逆性といった、本作の一つのテーマを匂わせる。その後の展開の伏線にもなっている。何気ない会話に重要な部分をすり替えて仕込ませるこの手際のよさたるや……。会話に参加していないキャラも、視線で気持ちを(視聴者に)訴えているので、画面を広く観る必要がある。気が抜けない。

登場人物の(物理的な)配置や小道具、音楽の使い方も良い。
例えば、1話で4人が使う車を装飾しているシーン。初期配置は時計回りに好意を向けているような並び順。家森⇒すずめ⇒司⇒真紀。司が真紀に近づこうとすると、足を滑らせる。家森とすずめも後に続く。最終的には真紀だけが立っている。本当に何気ないシーンだが、今後の関係性の変化の暗示のように思えて仕方が無い。小道具に関しても一例を挙げれば、すずめが好んで飲んでいる正四面体のパックは関係性の暗喩だろう。

4人が最初にスーパーで演奏するドラゴンクエストのテーマ曲は、これから始まる酸いも甘いもあるであろう【冒険】の始まりを告げるにふさわしい選曲だし、2話で使用されるSPEEDの「White Love」も、九條さんの司への気持ちを表していて泣ける。二人の関係の終り、つまり情事の後の屋上での会話のシーンで、「果てしない あの雲の彼方へ」まで歌い、続きを歌わないのも染みる。九條は司に対して、「私を連れて行って」とは、もう言わないのである。結局九條は、婚活で出会ったタイヤの話しかしない男と結婚するのである。

そして信頼と実績のキャスト陣。難しい会話劇を、絶妙なテンポ・表情・体の動きで表現している。特に高橋一生は本当にすごい。偏屈で自分ルールに拘りがある難しい役柄を、影がありながらひょうきんに演じている。

真紀は夫を本当に殺したのか?司の家族は?家森はなぜ借金取りのような人間に追われているのか?すずめの過去は?こういう分かりやすい謎も残されている。
作中で度々発せられ、また公式サイトで本作のテーマと明言されている「人生には三つの坂がある。上り坂、下り坂、まさか―」という言葉。まさにその言葉通りの物語が展開されているし、今後もそうだろう。
散りばめられた謎を解消しつつ、4人の関係がどこに着陸するのか、非常に先が楽しみである。