あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

3巻以内で完結するおすすめ漫画10選

前書き

壮大で長い期間楽しめる長編漫画も良いが、短い時間で濃密な体験を得られる短い漫画も好きなのです。
という訳で、3巻以内に完結するおすすめ漫画を選んでみました。一応、何となくですが【同じ作家を選ばない】という縛りを勝手に入れてます。

★1巻

1.『おひっこし』沙村広明

竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

無限の住人』『波よ聞いてくれ』の沙村広明が描く大学青春コメディ。全2巻の『ハルシオンランチ』と迷ったが、今回はこっち。『波よ聞いてくれ』で見せている暴走気味の会話や斜に構えた世間への不平不満・愚痴を、面白可笑しく描いている。また大学生ラブコメ群像劇らしく、青春の愛憎や人間関係のグダグタさも良い。本作に限らず、沙村広明のコメディ、基本的には登場人物漏れなく全員残念人間なのも謎の安心感がある。

2.『ちーちゃんはちょっと足りない阿部共実

空が灰色だから』で鬱漫画家枠として名を馳せた阿部共実の単巻モノ。主人公・ナツとちょっと知能が足りていない(ADHD?)ちーちゃんを中心とした、中学生女子のままならなさを描いた作品。この二人に限らず、みんな何かが少しずつ足りていない。それは、我々も一緒だろう。物理的なものが足りない人、精神的な充足が足りていない人、思いやりが足りない人、言葉が足りていない人。そういう足りないながらも、(少なくとも客観的には)幸せそうな人間もいるし、そうでない人もいる。詳細はネタバレになるので伏せるが、本作では後者の人間が、劣等感に苛まれながらじわじわと満たされない日々に潰されていく。
読後感は決して良くはなく、心が掻き毟られる感覚が残る。キャラの配置や物語構成、タイトル等、細かいところまで非常に良く考えられており、読み解きがいもある。傑作。

3.『ネムルバカ』石黒正数

ネムルバカ (リュウコミックス)

ネムルバカ (リュウコミックス)

それでも町は廻っている』でお馴染み石黒正数が描く、大学青春モノ。単巻漫画オススメ系では必ずと言って良いほど名前が挙がっている気がするが、やはり外せない。『外天楼』も良いが、個人的にはこちらに軍配があがる。
中盤までは、大学の女子寮で同室の二人、バンドに打ち込む先輩・鯨井ルカと、打ち込むが特にない後輩・入巣柚実を中心とした、緩い大学生日常モノとして話が進む(因みに大学の描写は一切ない。思えば大学生活の思い出の大半は大学という場所にない気がする)。とは言え、石黒さんの日常描写力・着眼点は最強に近いので、この側から見ればどーでも良いけど、本人にとっては切実なモラトリアム生活を眺めているだけでも楽しい。後半は、音楽活動に関するルカの葛藤や焦燥感、「セルフテロ」を仕掛けるシーンを筆頭に、自己実現の方法を考えさせられる。
因みにかの有名な(?)、需要と供給が内輪で完結している、ぐるぐる廻り続けて前進しない様を指す「駄サイクル」という言葉が生み出されたのもこの作品。駄サイクルに陥らないよう日々自戒。
緩いながらも十人十色の焦燥感があるモラトリアム的大学生活は、何度も読み返したくなる。

★2巻

1.『ぼくらのよあけ』今井哲也

アリスと蔵六』の今井哲也が描く、一夏のジュブナイルSF。
近未来感と郷愁を同時に感じさせる世界観も見事だが、2巻の中に諸々の要素を詰め込み、消化しきったストーリーも見事。
親子二代に渡って宇宙船を送還するためにあれこれするという王道ジュブナイルストーリー、いじめや姉弟間の距離感という子供特有のデリケートな問題、またストーリーを阻害しない程度の程よいSF的ガジェットの作り込み、そして人工知能との出会いと別れ等、様々な要素がしっかり絡み合って、全2巻に凝縮されている。
本作に限らず、今井さんの絵は、空間、もっと言えば世界の広さを感じさせてくれる。団地の屋上から見上げる空とか、宇宙とか。特に本作の世界観・舞台設定と今井さんの絵は、整っている訳ではないが、それ故のノスタルジーも相まって非常にマッチしていて良い。

2.『レベルE冨樫義博

説明不要な気もするが、本当に好きな作品なので。
地球にやって来たドグラ星のバカ王子が暇つぶしに起こす「本気の」悪ふざけに皆が振り回される、ドタバタコメディ。
HUNTER×HUNTER』で見せているような頭脳戦を、この悪ふざけに注ぎ込んでいる。単なるコメディではなく、1話完結のミステリ・サスペンス・SFとして斜め上に着地させてくるストーリー作りが凄い。

3.『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない桜庭一樹/杉基イクラ

桜庭一樹による同名小説のコミカライズ。この作品、ネタバレなしで語るのは難しい。ので、原作小説のAmazon紹介文を引用しておく。

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

主題は、側から見れば歪んでいるけど本人(たち)にとっては切実で正常な「愛」とか、少女の反抗と無力感とか、その中で育まれる少女たちの友情とか。
コミカライズではあるが、原作が持つ儚げで危なっかしい雰囲気を見事に描いている。
少女たちが撃ち出す砂糖菓子の弾丸とは?彼女たちは実弾を手に入れることが出来るのか?彼女たちの残酷で窒息しそうな現実を乗り越えることが出来るのか?
結局この作品は、作中のこのセリフに集約される気がする。

『好きって絶望だよね——。』

★3巻

1.『G戦場ヘヴンズドア日本橋ヨヲコ

少女ファイト』の日本橋ヨヲコか描く、漫画家モノ。といいつつ、『バクマン。』のような漫画家や週刊誌のお仕事解説のようなものはない(バクマン。もそれだけではないけど)。「漫画を命を削って描く」登場人物たちの姿に胸を打つ、青春モノである。
以前記事にしているので割愛するが、尖っているが熱くなれる、傑作だと思う。

2.『ヴォイニッチホテル道満晴明

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

南国のリゾートに佇むホテルヴォイニッチを舞台とした物語。一応は、元ヤクザながら凄みのない緩い感じのタイゾウと住み込みメイドで魔女のエレナが中心に添えられているが、その他大勢のキャラが出てくる群像劇と言える。
物語の要約に意味はない。この作品の魅力は、本来なら交わるはずのない、同じ作品には存在し得ないような属性の、様々な(そして漏れ無くエキセントリックな)人物が、「ホテル」という舞台を介して一作品にごった煮のように存在し、繋がっていく不思議さにある。
基本的には1話完結のオムニバス形式なのだが、道満晴明はミステリ的な起承転結が上手すぎる。悲劇的でもあり、喜劇的でもある不思議な読後感。起きていることは殺人とか麻薬とか暴力的なことやその他ままならないことが殆どなのだが、道満晴明のポップな絵柄と、悲劇的なことを淡々と面白おかしく解釈しようとする登場人物たちが相まって、シュールギャグ的な感覚に収斂していく。
このとっ散らかった登場人物たちが織り成すカオスな悲喜劇が、最後は意外にも(?)キッチリ完璧な大団円を迎えている。凄い。

3.『がらくたストリート山田穣

元気で好奇心旺盛で素直な小学生・リントを中心とした小学生's、リントの姉世代の中学生's、リントの兄世代の大学生'sの3世代が、混ざったり混ざらなかったりする田舎日常モノ。宇宙からやってくる可愛い娘(宇宙ちゃん)とか民族伝奇とか、その辺の非日常的要素も存在するが、それすらも日常の範疇に取り込んでいる。
基本的には1話完結で、グダグタと様々な薀蓄を理屈っぽく垂れ流すごった煮的作品なのだが、不思議と読後感はとても爽やかな感じがする。田舎のジュブナイルというテーマというか世界観が通底にあるからだろう。薀蓄を語られる側の反応も、素直に喜ぶリントから「ハイハイ」と受け流す女性陣まで、様々で良い。
最終話で、上半分で女性キャラの入浴シーンを流しつつ下半分でギターの音の仕組みを解説するような漫画。最高です。

4.『ACONY』冬目景

ACONY(1) (アフタヌーンKC)

ACONY(1) (アフタヌーンKC)

妖怪やら森の神やら何やらと言った不思議生物たちが集まる「しきみ野アパート」を舞台とした、「GOTHIC BLACK APERTMENT COMEDY 」(公式)。奇々怪界な人物が住まうしきみ野アパートに、中学生の主人公・モトミが引っ越してきて、永遠の13歳(中身は23歳)のアコニーという少女と出会うところから話はスタートする。
一応、アコニーの不老不死の秘密を明らかにするというストーリーや、冬目景作品に共通する社会からの視線云々や自分は何者なのか的問いなど、ややシリアスな部分もあるが、基本的にはアパートを舞台とした(というかアパートに振り回される)カオスコメディ。
アパートという舞台自体と、カオスで奇異な住人たちの両面からドタバタが発生し、それに振り回される一般人モトミという構図が良い。ラストの、アコニーとモトミのこれからの関係性を予感させる終わり方も余韻が残る。
結局、自分の頭が足りてないので、冬目景作品の良さを語るとき「雰囲気」としか言えないのがもどかしい。
因みに単巻ゆるふわラブコメ『ももんち』と悩んだが、今回はこっち。

後書き

結局、定番が揃った気がします。新しい作品が少ない、というかナッシングですね。思い出補正が強すぎるのか…?
何はともあれ、短い漫画は良いものです。軽い気持ちで読むと、不意打ちで刺されることも多々あります。財布にも優しいので、今後もどんどん読んでいきたいと思います。