あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『俗の金字塔(窓ハルカ)』~ポップで明るいモラル崩壊

俗の金字塔 (torch comics)

俗の金字塔 (torch comics)

表題作の中篇『俗の金字塔』を含む、中短編集。

容姿端麗な変わり者ゆかりと、その恋人の野中雪夜、野中への恋路の途中でゆかりへと心変わりした後輩女子の美咲。不思議な三角関係を軸に、意表をつく展開をみせる表題作「俗の金字塔」ほか、過激で繊細な物語8編。

と、作品紹介には書かれている。
まぁそうなのだが、この作品はそんなストーリー紹介は意味を成さない。

この作品、特に表題作で展開されているのは、およそ「モラル」とか「常識」とかが抜け落ちている人間たちによる性コメディ。この手の所謂「サブカル糞野郎系マンガ(貶し言葉ではない)」は、往々として性衝動を扱っているが、その多くが性衝動に振り回されている人間を、割と重々しく描いているように思える。本作も書店に行けば、そういう作品群と同じ棚に陳列されているだろう。しかしこの作品は、そういう性衝動やそれに伴う変態的行為行動は当たり前に・前提的に存在している。主題ではない。それらはあくまでギャグの要素に過ぎないとばかりに。登場人物たちは、俗な欲望に忠実に生き、軽々とモラルを超えて行く。

で、こういうとなんだか普通の単なるお下劣コメディみたいに見えるが、読んで受ける印象は随分と違う。このアブノーマルな人間たちが、単純なカオスに振り切れず、ギリギリではあるが普通の恋愛モノ的で健気な感覚を持っているのが、愛らしい。登場人物それぞれが、何か懸命に、そしてポップで明るく、愛に生きている感が出ている。理屈じゃなく印象として。このバランス感覚は、もはや天性のものと感じる。

と、だらだらと感想を書き連ねてきたが、基本的には「理屈で考えるな!感じろ!」系のスピード感溢れるコメデイとして楽しめる。唐突な性描写をコメディ要素として昇華できる方ならば、是非ご一読を。

絵柄と謎の疾走感が相まって、ギャグマンガ日和の夢野カケラ作品を思い出す。