あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【2016年】個人的におすすめしたい漫画10選

前書き・選定基準とか

2016年も残すは1週間。今年も色々な漫画を読んだ。今年も玉石混交の漫画界だったが、個人的に「これは玉!」と感じた作品を、下の基準に沿って紹介していきたい。

①完結済みの漫画のうち、2016年に完結巻が発売された漫画(全1巻・短編集含む)

②未完結の漫画のうち、2016年に単行本が発売され、かつ現在の巻数が5巻以下の漫画

これくらいの縛りが、なんというか「2016年の漫画です!」感が出ると個人的に勝手に思っている。因みに紹介順はテキトーです。10選という数にも深い意味はないが、多すぎず少なすぎずという線のつもり。キリも良い。では早速。

1.『空中庭園の人々』冬目景

冬目景作品集 空中庭園の人々 (バーズコミックス)
 

 

 全1巻の短編集。以前記事にもしたが、私は冬目景信者なのである。なのであるが、この作品は信心抜きにしておすすめできる。

宇宙人とかゾンビとかタイムスリップとか、その辺の「少し不思議」要素をミニマムな生活に溶け込ませてコメディをやっている。どの話も出来も雰囲気も良い。冬目景最大の魅力はやはり絵面とそこから醸し出されるスレた雰囲気なのだが、これが不思議とコメディにもマッチする。過去作なら『ACONY』とか。毛色が違うラスト1話の「青密花」は、冬目景の一般的イメージの退廃で鬱屈とした作品に仕上がっている。比較的読みやすい作品が多いので、冬目景入門にもうってつけ。

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2.『ニュクスの角灯』高濱

ニュクスの角灯 2 (SPコミックス)

ニュクスの角灯 2 (SPコミックス)

 

未完結、現在2巻まで発売中。

舞台は明治時代初期の長崎。道具屋「蛮」の売り子で、物の過去や未来が見える神通力持ちの主人公・美世を中心に、道具屋店長のモモ他、様々な人物の人間関係や野心を丁寧に描いている。

チョコレートやミシンや洋服等に驚きつつも使用していく様であったり、逆に日本の道具を海外へ輸出するために奮闘したりと、明治時代ならではの文化的商売モノとして、時代背景や道具の描写が丁寧で良い。が、それ以上に、主人公・美世の成長譚として楽しめる。最初は文字も読めずネガティブな少女だったが、読み書きを覚え、色々なものに触れ、看板娘として強かになっていく。好奇心も旺盛になるし、モモへの恋心も自覚していく。ぶっちゃけてしまえば、滅茶苦茶可愛いのである。

2巻のラストでは、美世の恋路に二つの障害が立ちふさがる。穏やかでないが、応援したい。

 

3.『波よ聞いてくれ』沙村広明 

未完結、現在3巻まで発売中。

今更紹介する必要があるか?という位有名な作品だが、やはり相当に面白いので選出。私は冬目信者でもあると同時に「サムラー」でもあるのです。 因みに玉置勉強も結構好きで、当時の多摩美半端ない。

カレー屋でアルバイトをしていた主人公・ミナレが、ひょんなことからラジオのパーソナリティを目指す話。作者曰く「無軌道オカルトカレーラジオ漫画」とのこと。

沙村広明の作品は、

①バトルアクション魅せる系(無限の住人、ベアゲルター等)

②欧州貴族の闇系(ブラッドハーレーの馬車、春風のスネグラチカ等)

③会話重視のコメディ系(おひっこし、ハルシオンランチ等)

に大別される。本作は③。沙村広明の漫画家としての最大の魅力は、会話センスだと個人的には思っている。特に時事ネタ。本作の「場末の地方ラジオ」という舞台設定は、氏の魅力を最大限に活かせるモノだと思う。これからも主人公・ミナレ他多数のキャラクターたちの無軌道から目が離せない。

大体の人は読んでいるか、少なくともタイトルは知っているだろう。未読の方、ぜひ読みましょう。既読の方、特に③の作品を読んでみてください。全部読んでる方、僕と握手。

 

4.『動物たち』panpanya

動物たち

動物たち

 

全1巻の短編集。

全1巻の短編集と言いつつ、 前作までの3作品から継続している作品集。

この作者の魅力は、マジで読んでくれとしか言えない、説明しがたい日常遊離的な雰囲気にあるのだが、それでも言葉にしようとするなら、

①風景や心情や日常の細部を抉り出す観察力

②①の違和感を膨らませてトンデモ不思議ワールドを構築する想像力

③②で構築したワールドを細部まで濃く写実的に描写する画力

④③と対比させるかのような人物・生物のデフォルメ力

⑤①で観察した日常あるあるの細部をさらっとトンデモワールドやキャラの言動に混ぜ込む台詞回し

と言ったところだろうか。分からないと思うので読んでください。

前作までの3作品は「足摺り水族館」「蟹に誘われて」「枕魚」と、魚関係のタイトルだったが、本作は「動物たち」となっている。前3作品は、トンデモワールドに対しても登場人物は淡々としていたが、今作では表情が豊かになっている。多少。また完全巻き込まれ型が多かった前3作に比べて、本作では人物が(多少)能動的に動いている。この辺のタイトルと中身のリンクのセンスも素敵。表情豊かにはなっているが、登場人物たちが不思議事態に巻き込まれてもいい意味で淡々としているのは変わらず。今までの作品と比べて荒唐無稽感が若干薄く、どちらかと言えばちょい不思議なポップエッセイ的な感じにはなっている。一番読みやすいと思うので、ぜひご一読を。

 

5.『やがて君になる』仲谷鳰 

やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)

 

未完結、現在3巻まで発売中。

ビバ・百合。と言い切れないのがこの作品の妙。特別な恋愛感情が分からない侑と、完全無欠の生徒会長という皮を被ったチワワ系橙子のアンバランスでアンビバレントな感情にやきもき。絵面も透明感があって読みやすい。最近の百合ものにありがちなヤンデレホラー感や過程をすっ飛ばしてイチャイチャするだけの作品とは一線を画し、丁寧に心の機微を描いている。その上で百合的ニヤニヤも十分にある。

侑は「好きっていう感情が分からない」とか言っているし、一見べた惚れに見える橙子は橙子で「好きになってくれなくても構わない」とか言っている上に何やら厄介な過去がありそうで、彼女たちの恋路は一筋縄ではいかないだろう。果たして彼女たちはハッピーエンドを迎えることができるのか?そもそもどんな状態がハッピーなのか?今後とも目が離せない。

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6.『盆の国』スケラッコ

盆の国 (torch comics)

盆の国 (torch comics)

 

全1巻。

お盆(8月15日)をループする世界に巻き込まれ、そのループに気づいた女子中学生・秋が、浴衣を着た謎の青年・夏夫と出会い、ループを解消するために奔走する、という話。

ループものとして見ると粗は多いが、この作品の魅力はそういう話の筋にはない。ガールミーツボーイのジュブナイルものとして、切なくも前向きなラストが非常に良い。またお盆という設定もよく、ご先祖さまの幽霊たちが可愛らしい。千と千尋っぽいが、オリジナリティも出ている。

商業デビュー作らしいので、今後とも期待大である。

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7.『彼とカレット。』tugeneko 

彼とカレット。 (4)

彼とカレット。 (4)

 

全4巻。

『上野さんは不器用』でプチブレイクをした作者の4コマ漫画。個人的にはこちらの方が数段面白いと思っている。終わってしまってとても悲しいのです。

ポンコツの癖に態度が悪い家事ロボットのカレットと、カレットの派遣先のアパートに住むセクハラ青年イケダを中心とした、ギャグ4コマ。『上野さん』でも健在のセクハラギャグを、4コマのスピード感でやっている。

登場人物が多く、どれもキャラが立っている。このわちゃわちゃ感が終わってしまう喪失感は凄かった。因みに週刊アスキーのウェブサイトで無料で読めるっぽい。

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8.『メイドインアビス』つくしあきひと 

メイドインアビス 5 (バンブーコミックス)

メイドインアビス 5 (バンブーコミックス)

 

未完結、現在5巻まで発売中。

冒険ファンタジー。 人類最後の秘境と呼ばれる、謎の巨大な縦穴「アビス」。「探窟家」と呼ばれる人々は、命をかけてアビスに挑み、遺物と呼ばれるテクノロジーやまだ見ぬロマンを追いかけている。主人公リコは、伝説の探窟家である母親を追い求め、謎の少年型ロボットリグとともにアビスへ挑み始める。

というのが導入部分。こういう冒険物、個人的にはあまり読まないカテゴリーなのだが、本作は別格のように感じる。

まず、設定や描写の緻密さ・強度がすごい。こういう冒険物は、「どこまで世界観を設定するか」というのが肝だと個人的には思うのだが、本作は非常に良く練られている。例えばアビスは7層に分かれており、層ごとに呪いがあるのだが、呪いの現象はもちろん、その発生原理まで、納得してしまうような形で提示されているのだ。この世界観や現象、アイテム等は当然想像の産物だが、読んでいて納得してしまえる情報があるか、というのはファンタジー作品の没入感を大きく左右するが、本作では大きくクリアしている。

造形センスと画力もすごい。各巻の表紙を見ていただければわかると思うが、キャラクターが可愛い。頭身低めで。作中もブレることのない可愛さ。色々な謎生物も見所である。

そして話の内容は結構えぐい。アビスの呪いにしてもそうだし、呪いを研究して非人道的実験をしている人間もいるしで、可愛いキャラに容赦なく絶望的なことも起こる。とはいえ理不尽で突拍子も無い災厄は少なく、この設定でこういう行動をすれば致し方ない、という絶望。それでも主人公御一行は、前に進んでいく。その、絶望と希望、そして登場人物にまつわる謎が、物語の推進力になっている。

没入感が凄いし、キャラも魅力的だし、謎も散りばめられていて先が気になるし、今一番熱い冒険物だと思う。

因みにアニメ化するらしい。

 

9.『スペシャル』平方イコルスン

スペシャル 1 (torch comics)

スペシャル 1 (torch comics)

 

未完結、現在1巻まで発売中。

割と普通の転校生・さよと、異常な怪力女、ガソリンフェチ、金持ち女子と従者的男子、豆中毒、つねり魔等、一癖も二癖もあるクラスメイトたちが織りなすコメディ。

と言い切れないのが本作。転校生以外から、上述のような「変」な部分に突っ込みが入ることはない。彼らは既に受容し、日常の常識の中に「変」さを組み込んでいるのだ。そこに対する転校生の視線、これが本作をただのコメディと割り切れない魅力である。

もちろん、作者の武器である独特な台詞回しも健在である。

この不思議な魅力は、作者にしか出せないと思う。作者の作品の中では比較的読みやすく、笑いどころもわかりやすいので、ぜひ。

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10.『第七女子会彷徨』つばな

第七女子会彷徨 10 (リュウコミックス)

第七女子会彷徨 10 (リュウコミックス)

 

全10巻。

女子高生版ドラえもん
「友達選定」という仕組みでペアになったしっかり者の金やんと天然ボケの高木さん。始まりはシステマティックだが、彼女たちの友情は育まれている。 技術が進歩し、様々な珍妙な道具があふれていている世界で、彼女たちが道具に振り回されていく。基本には1話完結だが、時折1巻丸々使って、プチ長編も混ぜてくる。

珍妙SF風味ギャグあり、女子高生ぽい友情あり、技術によって日常が崩壊していく様ありと、様々な要素が絶妙に絡み合っている。

最終10巻では、今まで積み上げてきたものの現実と仮想のラインを曖昧にしつつ、伏線を回収し、前向きなラストを描き出していた。本当に傑作だと思うので、完結を機にぜひご一読いただきたい。

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後書き

以上、10作品を紹介した。以下一覧。

①『空中庭園の人々』冬目景

②『ニュクスの角灯』高濱

③『波よ聞いてくれ』沙村広明

④『動物たち』panpanya

⑤『やがて君になる』 仲谷鳰

⑥『盆の国』スケラッコ

⑦『彼とカレット。』tugeneko

⑧『メイドインアビス』つくしあきひと

⑨『スペシャル』平方イコルスン

⑩『第七女子会彷徨』つばな

今年も、長年読んでいるベテランから新人、私が知らなかった中堅どころまで、様々な方の作品を楽しむことができた。来年も沢山読んでいきたいものです。

 

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