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あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『トロフィーワイフ』舞城王太郎

小説 感想

 

群像 2016年 12 月号 [雑誌]

群像 2016年 12 月号 [雑誌]

 

群像12月号に掲載されていた本作。中篇。

語り手・扉子の姉で完璧超人の棚子が、突然銀行員の夫と離縁し、福井の友人の家に転がり込んで生活を送る。離縁の理由は、「夫が『真実の愛』に気づいたから」というもの。この「夫が『真実の愛』に気づいた」の真意や、扉子-棚子の姉妹の関係及び棚子-周囲の人々の関係、事の顛末、更には突き詰めた幸福論を、舞城さんらしい軽妙ですっ飛ばした語り口で100ページ強に詰め込んでいる。相変わらず密度が濃い。

夫が気づいた『真実の愛』っていうのは、「自分が所有権を得たものに対して深い愛情を抱くのは、そのように価値観が変化するから」という、ある社会学者の実験に基づいている。
夫としては、棚子のような非の打ち所のない人間が、自分を愛している(価値観が変容しているから)という根拠になる。また他人の、ともすれば「妥協」とも取れてしまうような結婚・恋愛も、「(変容した価値観に基づいた)真実の愛」として認められるようになる。
しかし棚子は、これを良しとしない。結局、これは「(きっかけさえあれば)誰でも良いのだ」と捉える。一理ある。そのことに絶望し、福井に引きこもるに至る。

この愛やら幸福やらの価値観の対立を、扉子という第三者的で冷徹な視点で観察されていく。扉子は扉子で、棚子というあらゆる意味で重い姉と対決する。

各登場人物の会話が、いつも以上に絶妙に噛み合わなくてすごい。この噛み合わなさが、各登場人物の思考主張の描写に留まらず、物語の駆動要因になるのが舞城さんのよさであるが、本作ではそれが際立っていた。テーマについても、幸福・恋愛・結婚という割と普遍的な材料を、物語と上手く絡めて独自の視点で饒舌に語っている。舞城作品ではしばしば出てくるような、絶妙でナチュラルなサイコパスチックな棚子と周囲のややホラーな関係性も、少ない紙幅で抉ってきて良い。今年読んだ純文(?)周りの作品では一番良かったと思う。

 

既存の作品では『キミトピア』辺りに収録されてるものの進化系、みたいな。