あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】『〈harmony/〉』伊藤計劃/三巷文

 

 34歳という若さで亡くなったSF作家・伊藤計劃。2015年位から、彼の作品のメディアミックスが活発化し、アニメ映画やら漫画やらが立て続けに作られている。本作もその流れに沿ったもので、アニメ映画のキャラクターデザインを踏襲した形の漫画である。私自身は、原作・アニメ映画ともに触れている。

 〈大災禍〉と呼ばれる悲劇を人類が経験したのちの、極度な生命主義に基づいた管理社会が舞台。何より調和を重視し、優しさや思いやり、倫理道徳の尊重を半ば強制される世界。学生時代、それに違和感を覚えた主人公トァンは、より一層その調和的管理世界を憎んでいるミァハに出会い、ともに自殺を試みる。結果ミァハは自殺に成功し、トァンは失敗(したとトァンは思っている、物語の始めの地点では)。トァンはそのまま表面的には管理社会に迎合したふりをして成長し、生命主義を推進する国家機関の要職に就きながら、戦場を優しさからの逃げ場として扱い、本来は禁止されている酒煙草を裏取引で嗜んでいたが、それが露見して日本で謹慎していたところ、かつてミァハとともに自殺を試みたキァンと再会、飯を食べている時にキァンが突然喉を刺し自殺、その同時刻世界中で自殺が多発していた、というところで一巻は終わる。

だらだらと粗筋をなぞってみたが、本作、というか伊藤計劃の原作の魅力は、こういうしっかりとしたSF的世界観及び出来事の進行の中で、それに馴染めず、逃げたり叛逆したりするトァンの心理行動を丁寧に描いているところにある、と私は思う。世界(社会)-個人の関係のあり方を描くための適切な世界観の設定が為されている。原作に関して言えば、ハッキリ言って滅茶苦茶好きな作品なのだが、そのコミカライズとしての水準はどうか?個人的には、かなりよく出来ていると思う。コミカライズ担当の三巷文という人、どうやら快楽天とかで人々の精を搾り取る系の作品を描いていたらしいのだが、自殺のシーンや戦場の向日葵、SF的ガジェットも良いし、何より人物の表情が良い。原作を読んだ時のイメージより、若干表情が豊かな印象を受けるが、そのギャップは漫画ならではの良さと受け止められる。特にトァンの不服顔が思ったよりがっつり不服そうで(もっと心の中で粛々と不満貯めてるイメージだった)、これはこれで良い。

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分量的には全3巻くらいになりそうだが、楽しみである。漫画版完結したあたりに、伊藤計劃についてオラオラ駄文を垂れ流したい…