あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

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【感想】『恋愛の解体と北区の滅亡』 前田司郎

恋愛の解体と北区の滅亡

恋愛の解体と北区の滅亡


宇宙人に地球が占領されている!北区では地球人による宇宙人刺殺事件が起き、それに対する宇宙人側の記者会見が始まろうとしている—。

という言葉的にはあまり穏やかではない世界観の中、大多数の人はそんなに真剣に捉えておらず、主人公も例に漏れず。
ひたすら語り手が頭の中で自尊心、憎しみ、愛について夜の街をブラブラしながら思弁していく。その思弁の中で、「マゾヒズム」というキーワードが引っかかり、SMクラブに赴く…という話。

「宇宙人」という荒唐無稽で壮大な設定と、ひたすらミニマムでどーでもよい(しかし日常に寄り添っている)思弁の対比は、狙いすぎかもしれないが、その思弁は(いい意味で)無駄に懇切丁寧に描かれている。

例えば、冒頭のビニール傘を買うシーン。
屈強そうな男(通称ゴールデンジム)にレジの順番を抜かされ、怒りを覚えるという描写に8ページ使う。抜かされたことに対する憎悪や劣等感、自尊心の損傷の分析描写に20ページ使う。

このささやかな「事件」をきっかけに、主人公は自尊心、憎悪、ひいては恋愛についてひたすらダラダラと思弁的に分析をする、「解体」していく。北区の滅亡など、もはや序でである。そういう、いわゆる独り言文学・自問自答文学を、ぬるぬるとした空気で続けていく様は、読んでいて心地よかった。