あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】羽田圭介 コンテクスト・オブ・ザ・デッド

「群像」2月号から連載が始まった、羽田圭介のコンテクスト・オブ・ザ・デッド。

羽田圭介と言えば、スクラップ・アンド・ビルドで芥川賞を受賞したが、ピース又吉のせいでイマイチ影が薄い…というわけでもなく、結構テレビやらなんやらに出ている。

まあ顔も良いし喋りも上手だし、何より生き残っていくためには仕事を選ばない感じが出ってとても好感が持てます。

スクラップ・アンド・ビルド

スクラップ・アンド・ビルド

でも、僕はスクラップ〜を始め、羽田作品に触れたことがなかった。何故と聞かれると、特に理由はないのだが。

ゾンビと死んだ出版業界

で、毎月なんとなく読んでいる「群像」の2月号に、羽田圭介の新作が載っていた。とりあえず読んでみるか、という感覚だった。
本作は、いわゆる「群像劇」である。全視点を貫く世界観として、世界に緩やかにゾンビが発生してきた、というものだ。ただし、パニックになったりゾンビ殲滅したりするという展開にはならない。ゾンビになって殺されるのももちろんいるけれど、度合いによっては普通に生活しているゾンビもいる。死者が蘇るというケースもある。
で、群像劇であるという話をしたが、本作は、5人の視点で語られる。詳細は省くが、特徴的なのは5人中4人が出版業に関わっている者なのである。
出版業界と言えば、それはもう死に体である。特に羽田の主戦場のいわゆる純文学界隈は。そんな市井を反映してか、この4人もどこか暗いというか、出版業界にいながら業界に対して厭世的というか、少なくとも「希望に満ちている」という感じはない。

で、この二つの要素はどう交わるの?という話。正直、ラストの引きを読むまでは、全然まじわってねーな、という感じだった。出版業界の死と過去の栄光に縋る者たちを「ゾンビ」に見立てるアイロニーに留まる程度。しかし、ラストのシーンで夏目漱石がゾンビとして復活する。この文豪(のゾンビと)が、どう絡んでくるのか、それは硬直化して死に体の出版業界への一石を投じる提言になりうるのか、そしてゾンビモノとしても上手くオチをつけられるのか?この作品の評価は、それらをどう処理するか、という羽田氏の手腕にかかっているだろう。純文学の素 (ちくま文庫)

純文学の素 (ちくま文庫)