あの青い作業着を脱ぎ捨てて。

アニメ・漫画・小説・ゲーム等のフィクション作品の感想をゆるく綴ります。

【感想】空が灰色だから~璃瑚奈ちゃんが狂おしいほど愛しいdays~

阿部共実の真価は畳みかけるようなコメディにある

阿部共実の作品は、何だか後味が悪いものが多い。ホラーであったり、青春の過ちであったり、はたまた「足りなさ」であったり、その後味の悪さは、色々なものに起因する。「このマンガがすごい!2015」でオンナ編第一位に輝いた「ちーちゃんはちょっと足りない」で、そのイメージはより強くなった。

 

 けど、阿部共実という作家は、コメディも抜群に面白い。

大好きが虫はタダシくんの」収録の「ドラゴンスワロウ」や、最新単行本の「死に日々」収録の「アルティメット佐々木27」など、枚挙にいとまがない。

豊富なボキャブラリに裏打ちされた独特の言い回しや、畳みかけるようなテンポは、良質な漫才を見ているかのようである。

「心がざわつく」思春期コミックと銘打たれた代表短編シリーズ「空が灰色だから」にも、コメディ作品は多く存在する。

中でも僕が一番好きなコメディシリーズは、第2巻収録に「ネガティブスリーパー」を端緒とする、一連のシリーズだ。

平均的な睡眠時間で凡庸な人格を持つ美緒・短時間睡眠で破天荒ながら天才の翔・長時間睡眠でネガティブかつやる気に欠如した璃瑚奈という三人の女子校生が織りなす会話劇である。 

 上の表紙からして、もうやる気を感じない顔をしている。守ってあげたい。

で、この璃瑚奈ちゃん、とにかく上辺の弁が立つというか、言い訳や屁理屈がうまい。

「世の中は甘くないって言ったな!たった15歳の扶養家族のお前がなんで世の中甘くないってわかるんだよ!」

「確かめもしないで勝手に決めつけるなよ 決めつけて説教するなよ 世の中もしかしたら甘いかもしれないだろー!!」

(中略)

「そうやって最初からあきらめるなよ!世の中甘いか甘くないかで言ったら絶対甘い方がいい!そうだろ!」 

「私は世の中が甘い甘い世の中であってほしいと願ってるんだ!」

(空が灰色だから 4巻 第38話)

う~ん、ウザ可愛い。ロック。

 「やる気って本当に必要か?」

「現に私はやる気がないと言われながらも絶対無理と言われた三高を合格したんだぞ!私くらいになるとやる気なんていうスピリチュアルなもんに頼らなくてもできるんだよー!!」

(中略)

「だいたいやる気なんて本来必要ないものなんだよ!やる気なんて出たり出なかったりいい加減な運要素だ」

「やる気なくてもやることはしっかりやれ!やる気が出なかった場合も想定して行動計画立てろ!」

「社会という戦場はやる気がなくても戦える奴が強いんだよ! やる気がーやる気がーとかってずっとこだわってる奴はやる気がなくてもたたかえる奴に置いてかれるぞ!」

「私はやる気なんぞに頼らないで生きていくつもりだ それだけだ」

よくぞ言ってくれた。 やる気出ない体質の僕にとっても至言です。

まぁ、この怒涛の屁理屈の後、天才・翔が破天荒なノリで斜め上の正論をつきつけ、璃瑚奈ちゃんしょんぼりとか、やる気がないから絶対に行かないと豪語していた職員室の呼び出しに応じるとか、そんな感じオチがつく。この主張を最後まで押し切って行動を曲げないわけではないのだ。所詮ネガティバーの屁理屈だから、天才にはあっさりと論破されてしまうのです…。

そんな浅はかなところも含めて、璃瑚奈ちゃんは愛らしいぜ!というお話でした。